社会は暗記科目か2 出題意図を掘り下げないとダメ

これは以前の「社会科は暗記科目か?プロの歴史学研究者兼塾講師が考えてみた」の続編です。

 

アイキャッチ画像はフェルディナンド・マゼランです。マゼランを知らない人はいない、と思い込んでいましたが、意外に認知度は低いです。

 

社会は暗記科目か?というテーゼで最も「暗記」というイメージの強いのは歴史分野でしょう。歴史学を専門にしていますと、よく言われるのが「暗記得意ですか?」「記憶力はいいんでしょうね」という「褒め言葉」です。

 

歴史学研究者が言われて嫌な言葉、って想像つきますか?「反日左翼」「愚鈍」「役立たず」いろいろあるとは思いますが、おそらく一番嫌な言葉は「暗記がやっぱり得意なんですね」でしょう。統計を取ったわけではないので実際のところはわかりませんが、私自身の長年歴史学研究界に身を置いてきた経験と感覚から、ほぼ断言できます。

 

社会の先生で一番出自の多い学部はどこでしょう。

 

法学部でしょうか。商学部でしょうか。経済学部でしょうか。はたまた社会学部でしょうか。

 

いずれでもありません。間違いなく文学部です。歴史と地理は文学部で学びます。高校では「地歴科」と「公民科」に分かれますね。社会科という科目の多数派は「地歴科」系です。

 

つまり、彼らの多くは社会科を暗記科目と言われると少々「イラッ」と来る可能性が高い、ということです。そうした彼らが問題を作るとなると、「どうやって暗記ではないものを作ろうか」と思うわけです、多分。

 

でもいろいろなことを知っていてほしい、とも考えるわけです。無理やり頭に詰め込んだ「暗記」ではなく、「知識」として。

 

洛南高等学校付属中学校の平成30年度の問題にこんなものがあります。

 

問題文:石見銀山は⑧16世紀に(以下略)

設問 下線⑧について、16世紀の世界の出来事はどれか(大意)

ア アメリカ合衆国の独立  イ 第一回十字軍  ウ マゼラン世界一周  エ ナポレオン  オ 神聖ローマ帝国成立

 

難問です。中学入試では。ちなみに中学生ならばよほど社会が苦手な生徒でもない限り造作もなく解けます。ここで解説にアー1776年 イー1096年(以下略)とか丁寧に全部の年号をつけてしまうわけです。そしてそれを見た受験生は「ああ、こんなものまで覚えなければならないんだ😱」とパニクるし、受験産業の方でも必死になって世界史の主要年表を入れたりしかねませんね。増えてくると用語集をアップデートしたりして、また覚えなければならないものが増えてしまいます。

 

しかし学校サイドは「これくらいは大体知っておいてくれ」と思っているのでしょう。さらに言えば、これはマゼランと鉄砲伝来が同じ文脈で語られることを知っていれば、他のものを全て知らなくても答えられます。で、この問題の出題意図は、16世紀が大航海時代であり、それゆえ日本も西洋と出会ったのだ、ということを知っているかどうかを尋ねているわけではないでしょうか。

 

入試問題から覚えるべきポイントを抽出するときには、その問題を深く掘り下げた上で出題意図を探っているのか、ということが問われます。

 

次も洛南のH24年の地理の問題です。

 

設問 次のA〜Fの図は、それぞれ食料品、繊維、パルプ・紙・紙加工品、化学、情報通信機械器具、輸送用機械器具の6業種のいずれかについて上位5位までの都道府県を示したものです。図Bと図Eはどの業種のものですか。

A 栃木、埼玉、神奈川、長野、愛知 B 愛知、福井、滋賀、大阪、岡山 C 北海道、埼玉、神奈川、愛知、兵庫 D 神奈川、静岡、愛知、三重、福岡 E 北海道、埼玉、静岡、愛知、愛媛 F 千葉、神奈川、静岡、大阪、山口

出荷額(億円)

A 102347 B 28770 C 229415 D 405255 E 65522 F 232844

 

これ、ある参考書の解説を見ると、解答がBー繊維、Dー輸送用機械器具とされており、Bが一番出荷額が少なく、Dが一番多い、という解説があります。

せい!せい!せ〜い!聞かれているのはBとEなんですが。しかもこの解説では地図、必要ないですよね。一応、どの都道府県で何が作られているのか、ということに言及して地図を有効活用しましょうよ。

 

これ、学校側がEを聞いているのにはもちろん意味があります。静岡県と北海道と愛媛県が入っている、というのは富士市・富士宮市と苫小牧市と四国中央市が頭に思い浮かぶようになっています。いずれも製紙・パルプ産業の拠点です。

ちなみにCも分かりやすいです。北海道の工業といえば何を思いつきますか?食料品ですよね。

Fも分かりやすいです。千葉県・山口県といえば京葉工業地域と瀬戸内工業地域が化学の比率が高いことは基本的な知識です。

Aは「情報通信機械器具」ですが、これが一瞬「あれ?」と思うのはシリコンアイランドの九州や東北がないことです。これはカラクリがあり、工場出荷額なのでICチップのような高速道路や飛行機で運ぶ小さなものではこういうところで上位に上がってこないのです。一方長野県が入っているのはセイコーエプソンの存在が大きいです。しかしこういう知識が必要とは思いません。

Dは愛知県、静岡県、神奈川県で大体輸送用機械器具、つまり自動車(および自動二輪)であることが分かるはずです。

CとFは工業地帯・工業地域の部分で学びます。北海道が食料品一位というのは少し応用になりますが、京葉工業地域と瀬戸内工業地域のグラフは見分けられるようにしておくべきです。その知識は応用が大変効きますので。

 

こういう応用の効く知識をまず覚えることが重要です。

 

こういう風にまず基本を押さえていくと、覚えなければならない事項はそれほど数が多くないことがわかります。数えたことはありませんが、多分100もないのではないでしょうか。しっかりしぼって700個とか言われた日には吐き気がします。

 

近いうちに「中学に上がる前にこれだけは覚えておきたいチェックリスト」を作りたいと思います。これはpdfで作成して希望される方に無料プレゼントとしてお渡しすることを考えています。

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