社会は暗記科目か3冠位十二階→憲法十七条→遣隋使の訳

「社会は暗記科目か」シリーズ続編です。

 

前の部分はこちらから。

社会科は暗記科目か?プロの歴史学研究者兼塾講師が考えてみた

社会は暗記科目か2 出題意図を掘り下げないとダメ

 

覚えるべき年号として次のようなものがあります。近接した年号なのでしっかり覚えないといけない、と言われています。

【603年冠位十二階】【604年十七条の憲法】【607年遣隋使】

断言します。この年号を全部頭に入れないと解けない問題は出ません。社会科の歴史分野の問題を作るのはほぼ間違いなく学生時代に歴史学を専攻していた人です。歴史学を学んでこのような問題を出すことは考えられません。よほど手を抜いたか、大学時代に勉強を真面目にしていなかったか、です。

 

なぜでしょうか。

 

それでは冠位十二階から行きましょう。冠位十二階は推古天皇11年12月5日に制定されました。西暦(ユリウス暦)に直しますと604年1月11日になります。これについては『隋書』倭国伝から裏付けが取れます。

 

次に憲法十七条です。これは『日本書紀』推古天皇12年4月3日条にあります。西暦(ユリウス暦)では604年5月6日になります。

 

あれ?かぶりましたね。というか、「603年」を「むりさ」と語呂合わせで覚えさせる努力って、なんだったんでしょう。604年ですよね。

 

一応「むりさ」と語呂合わせで覚えていることを弁護しますと、推古天皇11年はそのほとんどが603年だから、問題ない、とはいえます。だから便宜上【603年冠位十二階】「冠位十二階なんて無理さ」と覚えさせています。

 

これもまた断言します。無駄な努力です。

 

もし「(   )年冠位十二階を制定」なんて問題が出たらどうなるでしょう。そして正解を603年と発表したらクレームの嵐でしょう。考えただけで恐ろしいです。10年ほど大学入試の採点業務に従事していた身としては、想像しただけで寒気がしますね。

 

入試採点業務の経験がなければこの辺の感覚は少しわかりづらいかもしれません。もっとも入試採点業務の経験ってかなりレアではあります。もっとも来年にはベネッセが募集した大学生のバイトが採点する予定だったようですが。

 

私が大学入試の採点業務を経験できたのは、私が日本中世史の研究者であり、その採点業務先の教学にも非常勤講師として携わっていたからです。

 

クレームを受けるのが大好きな学校でもなければこのような怖い問題は出さないのではないかと思います。そして万が一ミスで出され、それが入試問題をチェックする機会をすり抜けて出題される可能性はあります。ただそのようなヒューマンエラーにまで気を配って入試の準備をする必要はない、と私は考えます。

 

十七条の憲法はどうでしょう。『日本書紀』に乗せられていますが、中に「国司」(十二条)など、少なくとも大化の改新以降、つまり7世紀後半にならないと出てこない文言が出ています。ということは十七条の憲法は『日本書紀』の作者の創作である可能性があります。江戸時代にはすでにそういう見方があり、1930年に津田左右吉が改めて研究して以降、憲法十七条はフィクションである、という見方は根強くあります。まあ入試には出そうです。結構これ好きない人、いるんですよ。十七条の憲法が日本にはすでにある、とか言って。大体近代国家の基本である立憲主義における憲法と「十七条の憲法」って、同じ「憲法」でも全く意味が違います。この辺は公民のディープなところに入るのでこれ以上は立ち入りません。私の授業を受けた人は覚えてますよね?

 

ただ覚えておかなければならないのは遣隋使が一番最後、というところです。冠位十二階と憲法十七条(これは怪しい)を整えて初めて胸を張って聖徳太子らは(私は推古天皇が主体だと思っています)遣隋使を送ることができたのです。だから遣隋使が一番最後です。

 

これ、実は少しインチキです。

 

607年の遣隋使は実は2回目です。これ不思議なんですが、【630年、第一回目の遣唐使、犬上御田鍬】と覚えるのに遣隋使は第一回目を覚えないんでしょうか。

 

理由は簡単です。600年に派遣された第一回目の遣隋使で日本は赤っ恥をかくんです。

倭使節「倭王は天を兄とし、太陽を弟としています。夜明け前に政治を行い、太陽が出れば仕事を止めて弟に任せます」

隋の文帝「お前は何を言っているんだ?」

(『隋書』「倭国伝」を意訳)

 

国際舞台で赤っ恥をかいた倭はきちんと隋から学んだシステムを自分のものにして堂々と国際社会に打って出たわけです。その自信があの有名な「日出処の天子」で始まる手紙だったわけです。だから遣隋使は一番最後です。

 

これ、もう少し進むと、遣隋使にはさまれて冠位十二階・憲法十七条が出現します。

 

ちなみに冠位十二階と憲法十七条の前後関係には意味はありません。たまたまです。その前後を覚える暇があればそれぞれがどういうものだったか(冠位十二階は役人の偉さを示し、憲法十七条は役人の心構えを記す)ということを理解した方が役に立ちます。

 

多分、しばらく続きます。これだけではあきられるので、他の話も入れていきます。

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