中学入試受験生ならここまで解ける!センター試験日本史B

昨日行われたセンター試験日本史Bを、中学受験生が解けばどうなるか、をみていきます。

 

これは小学校で学ぶ日本史の知識がいかにあとあとまで影響を及ぼすか、ということの見本となります。基本的な知識を早い段階でつけておかないと、受験直前の間に合わせで得点を上げるための努力に追われることになります。

 

ちなみに中学の歴史は中学入試の社会に世界史を付け加えたものです。ほぼ流用できます。したがって中学入試は関係ないという方は、中学校卒業レベルとお考えください。

 

社会の担当者がよく言うことです。「数学の一点も社会の一点も同じ一点」です。ここの「数学」は苦手な科目を入れていただいて構いません。社会は努力すれば努力しただけの点数が取れます。

 

とりあえずみていきましょう。今朝の朝刊のセンター試験日本史Bの問題を手元においてみてください。

第1問の問1です。

「文部省設置の翌年に(ア)が設置」「イエズス会宣教師の(イ)」にあてはまる語句を選ぶものです。(ア)には「学制」と「教育令」、(イ)には「ヤン=ヨーステン」と「フランシスコ=ザビエル」ですが、これは中学受験レベルの知識で確実に得点できます。

問2は勧学院・奨学院についての図と金沢文庫についての正誤問題です。とりあえず金沢文庫は知っている生徒もいます。まあ解けなくても仕方ありません。

問3は絞り込みが効きます。①「空也が設けた綜芸種智院」→「空海」です。洛南高等学校附属中学の前身ですね。②「室町時代の武士の子弟たちは、寺院などに預けられ『読史余論』などを」→『読史余論』は正徳の治で知られる新井白石の著作です。江戸時代ですね。③「江戸時代には(中略)京都に(中略)懐徳堂」→懐徳堂は大阪です。少し難易度は高めですが、一応知っていても不思議ではありません。

問4は並べ替えです。鉄砲伝来・豊臣秀吉の朝鮮出兵・東大寺の再建に尽くした陳和卿を並べ変えろ、という問題ですが、東大寺再建の陳和卿は鎌倉時代です。それがわかれば回答は容易です。

問5は本居宣長と今昔物語を知っていれば正解にたどり着きます。もちろん平安時代マニア・源氏物語マニアであれば簡単な問題です。

問6は添付史料である津田左右吉の文章が読めれば得点できます。社会ではありません。

 

第2問は日本の辺境地域で難しい問題もありますが、基本を押さえれば実はむずかしくありません。

問1は大隅半島と薩摩半島という、地理を知っていれば解けます。

問2は三内丸山遺跡という基本事項を知っていれば半分にしぼれます。沖縄の歴史については中学受験では琉球王国以降しか学ばないのでこの辺は仕方ありません。

問3は絵を見て少し考えれば歴史の得手不得手関係なく得点できます。

問4は北上川を北上して秋田に着くはずがない、という地理認識を持っていれば半分に絞れますが中学受験では阿弖流為は学んでも、伊治呰麻呂は習いませんので、少し難しいかもしれませんが、阿弖流為は坂上田村麻呂とセットで出てくる、ということから正解に到達しうる問題です。

問5は藤原緒嗣・藤原仲成を学びませんので解けなくても仕方ありません。ただ橘逸勢は文化史で触れるので意外と正解率は低くないかもしれません。

問6は古文の読解問題です。ただし注がついているので古文の知識がゼロでもなんとか読めます。するとbの「遣唐使が、唐の皇帝に質問」とか、dの「蝦夷について、穀物を食べ、建物に居住していると説明」というのが間違いであることは読み取れます。ここは与えられた注をうまく使って読解できるかどうかの問題です。

 

第3問は中世の社会の問題です。

問1の僧兵の問題ですが、Yの「平安時代末期(中略)武家の棟梁の権威は低下した」が誤りであることは歴史が苦手な生徒でも理解できることです。

問2は中学受験の史料問題でも出題される紀伊国阿弖河荘の訴えです。原文をわかりやすくリライトした古文ですが、注が大量についていますのでそこそこ読めます。aの「連れ戻して」とかcの「荘園領主から頻繁に使役」というのは本文を読んでも書いてありません。

問3の①の「鎌倉には、天龍寺や建仁寺」というのは間違いというのはわかりやすい問題ですが、意外に中学入試ではここまでは扱わない気がします。③の「奈良や堺では、大原女や桂女」というのが間違いなのは、阪急沿線居住ならばわかりそうです。中学入試で扱う内容ではありません。④の「一向宗の信者たちが法華一揆を結んだ」というのは間違えようがありません。

問4の間違い探しですが「幕府の指示を受けて年貢などを奪い取る武士たちが、悪党と呼ばれた」が間違いなのは自明と言えます。

問5は戦国大名の領国支配について選択肢Yの「指出検地」(取れ高などを報告させて行う検地)は中学入試では扱いませんので仕方がありません。

問6の並べ替えはⅠの「問丸」とⅡの「永楽通宝」とⅢの「関所や座の廃止」の順番は中学入試で十分対応できます。

 

第4問では鉄と銀の生産や流通に関する問題です。

問1の「中国地方の(ア)周辺に「銀鉱山王国」」とみればここは石見銀山が入るのは中学受験の基礎知識です。「18世紀には、幕府は(イ)を発し、長崎における貿易額を制限して銀の流通を防ごうとした」の選択肢が「海舶互市新例」とあって、中学受験レベルでは「???」という感じですが、(正徳新令)とあるので、新井白石の正徳の治の問題だな、とわかります。まあ授業では軽く触れるレベル(でないと時間が足りない)ですが、テキストや参考書には書いてありますし、授業でも基本的なことを触れなくてもいいレベルの授業では触れます。そこは三大改革とその周辺をしっかり押さえているかどうか、というところですね。

問2の並べ替えですが、Ⅰ「商人に輸入生糸を一括購入」という糸割符制度は中学入試では触れる余裕がありません。高校入試レベルで出てきます。Ⅱの「スペイン船の日本来航を禁止」とⅢの「大友宗麟」の関係ははっきりしていますし、実は十分正解を狙えます。

問3は近世の貨幣についてですが、とりあえず③の「元禄時代、幕府は収入を増やすために貨幣改鋳を行った」という選択肢は中学入試でも範囲に入ってくる事柄です。あとは難しい問題です。

問4の①「桐生の織屋が独占していた高機の技術が、西陣などの各地に伝えられた」がガチで間違っている(逆ですね)のはともかく、入浜式と揚浜式の塩田の前後関係や、「シドッチによって活字印刷術がもたらされ、キリシタン版が出版された」というのは少し難しいかもしれません。

問5の①「水呑百姓」、②の「備中鍬」、③の「紅花の生産が出羽でさかん」というのは知識の応用でいずれも正解と判定できます。④の「国訴」の問題は高校日本史のレベルです。

問6はまた史料問題ですが「村々の衰微は明らか」という言葉が読め、さらに選択肢Yの「村々が衰微すると、述べている」という言葉が読めれば正解できます。

第5問は幕末維新というあたりです。

問1の空欄補充ですが、「江戸幕府がアメリカとの間で自由貿易をとりきめる(ア)」が日米修好通商条約であることは間違えようがなく、「国会開設を唱える土佐の(イ)」も立志社であることは基本事項です。

問2では日米修好通商条約締結後の日本の情勢について、正しいものを選ぶ問題ですが、①の貨幣改鋳が徳川綱吉の、②の株仲間解散が天保の改革の時期であること、③の薪水給与令が「日用品の価格高騰を抑えるため」ではなく、アヘン戦争に関連した外国船打払令の緩和であることは割合基本的な事項ですので、正解に十分到達できます。

問3では民衆運動の並べ替えですが、Ⅰの「困民党」、Ⅱの「ええじゃないか」、Ⅲの「血税一揆」について、ええじゃないかが一番古く、次に徴兵令に関係したⅢが来ることは明白ですので、これも中学入試レベルで正解できます。

問4では「民権運動が行きづまると急進派の民権家が加波山事件や大阪事件を起こし」というのと違った時期のものを選ばせる問題ですが、これは②の「二科会」が大正時代の話であることを押さえれば解ける問題です。社会にかける時間が多ければ二科会まで授業で扱えますが、授業数が限られてくると、政治の流れを押さえることのみになり、文化史は各自の勉強対応となってしまって後回しになります。社会の時間に多くを避けない受験産業の痛いところです。

 

第6問では近現代の風刺漫画を題材にした出題です。

問1は「1875年の(ア)」と「1910年、多数の社会主義者が検挙される(イ)」を埋める問題ですが、「治安警察法」(1900年)も「新聞紙条例」(1875年)も中学入試では基本的には踏み込みません。新聞紙条例と讒謗律は余裕があれば触れますし、治安警察法と治安維持法を間違えないように、という指示は余裕がたっぷり取れるときには触れますが、まあ難しいです。大逆事件(1910年)は重要事項の一つですが、三・一五事件(1928年)は少しレベルが高くなります。

問2は並べ替えですが、Ⅰの台湾出兵、Ⅱの「日露戦争」、Ⅲの「西南戦争」の順番を問うています。実は台湾出兵が一番早いです。ここから琉球処分につながります。これは中学入試では神戸女学院クラスならば出しても不思議ではありません。神戸女学院は近代史にかなり難問を出してきます。

問3は日露戦争後の外交です。日露戦争から韓国併合へという流れは基本的な事項ですので、①が正解というのは容易に導けます。②の北清事変は高校受験レベルで教えた記憶はありますが、中学入試では触れていません。もちろん神戸女学院ならば出しても不思議ではありません。③の江華島事件、④の日英同盟は基礎事項に属します。

問4は大正期の社会運動です。第一次世界大戦後の大戦景気についてですが、③の「造船業など重化学工業が拡大する一方で、繊維産業は衰退した」というのは、戦後の話であってこれが誤りであることは容易に見抜けます。

問5は「小日本主義」と「民衆の政治意識の成長を促した総合雑誌」を聞く問題です。前者の選択肢が石橋湛山と北一輝、後者の選択肢が『白樺』と『中央公論』ですが、ちょっと難しいかもしれません。

問6は大正期の政治・社会について述べた正しい文を選ぶ問題です。①の「血のメーデー」と「破壊活動防止法」の制定は戦後です。②の「ジーメンス事件」は若槻礼次郎内閣ではなく山本権兵衛内閣です。③の「大日本産業報国会」は昭和10年代です。①と②は中学入試レベルでは扱いません(山本権兵衛が「やまもとごんべえ」か「やまもとごんのひょうえ」かという面白い問題はありますが)。しかし④の「護憲三派の提携が成立し、第二次護憲運動を展開した」というのは割合基礎的な話です。この結果誕生した加藤高明内閣によって治安維持法と普通選挙法が制定されるわけです。

問7は「未婚の女子が女子挺身隊に組織」と「国民徴用令によって、重要産業への国民の動員」というのはいずれも基本的な事項ですので、中学入試レベルでは押さえておきたいところです。

問8は風刺画を読み取る問題ですが、「田」にあぐらをかいている人物に「農地改革司令」というこん棒を振り下ろしています。この人物が地主か小作人かという問題は間違えようがありませんし、農地改革が自作農の増加を目指したものというのも基本です。

 

どうでしょうか。採点してみます。確実にとってほしい問題だけを正解したとします。22問でした。一問3点ですが、2問だけ2点の配点なので2点減って64点です。これだけの得点をベースとして中学進学段階、あるいは高校進学段階で身につけておけば、それだけでも大きなアドバンテージではないでしょうか。

 

社会をすきま時間にきっちりと勉強できればいいなあ、と思いませんか?

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